フィーブル藩国 国立図書館

アクセスカウンタ

zoom RSS わたしがフィーブル藩国に入るまで

<<   作成日時 : 2007/02/06 20:04   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

 ―フィーブル藩国は、砂漠という名の砂の海と青い海の岩礁・浅瀬に挟まれて、ぽつんと存在する孤島のような冴えない小さな小さな藩国である。有り体に言うと田舎藩国となる。開拓民達が、弱々しく今にも消えそうなフィーブルという名のオアシスを中心として築いた国であるため、この名が付いている―
 (フィーブル藩国、国の成り立ちより抜粋)


/*/


 うわー……

 簡単な装丁の本を片手に港に降りたった女性―久織えにるは思わず息を漏らした。
 視界前方には見渡す限りの砂漠が広がり、後方には確認するまでもなく青い海が広がっている。
 風来人である彼女の目から見て、この田舎具合は尋常ではない。

 手に持った本に目を落とす。表紙に猫をあしらった国旗が描かれている本だった。

・フィーブル藩国
 現藩王:スフィア=ラスタリア=フィーブル
 現王猫:パーカー

 この地がフィーブル藩国に間違いないと判断し、入国手続きを済ませる。
 港より街道に出ると、早くもこの国ならではの手荒い歓迎を受けた。

 砂風が目に入ったのである。涙が出た。


/*/

 話は、少し時を遡る。

 「入国希望、ですか?」
 にゃんにゃん共和国入国管理管が僅かに視線を上げる。傍らには積み上げられた書類の山。
 「ええと、国民になりたいのですが」
 無意味に慌てるえにる。人見知りするタイプだった。

 「それで、どの藩国に登録希望でしょう?」
 事務作業に忙しいのか、管理官は手元でせわしなく書類に判を押している。

 「えっと、そういうのは特に考えてないですけど……」
 予想外の言葉に困惑する。
 共和国民になりたければ、単純に共和国の入国管理に行けばいいと思い込んでいた。

 「共和国では、藩国それぞれに国民の登録・管理をお願いしております」
 「はぁ、そうなんですか」
 藩国、ってなんだろう? という疑問がえにるの頭の中を駆け巡る。
 この人物、不測の事態に弱いところがある。ちょっと泣きそうだった。

 重い沈黙。判を押す音だけがする。

 「どうしたんだ?」
 第3者の声。振り返ると、背後に人が立っていた。

 「ああ、藩王さ…是空さん」
 無機質な沈黙を破ったのは、頭にバンダナを巻いた男。
 「こちらの女性が国民登録を希望されているみたいなんですが、藩国が決まってないようでして」
 「ふむ。“わかば”の人かもしれないな」
 是空と呼ばれたバンダナの男は、小さく呟く。
 少し考え、閃いたように顔を上げる。

 「あとは俺が説明しよう。君は仕事しなさい」
 男の口から出た言葉に、胡乱な視線を向ける管理官。管理官の傍らには相も変わらず書類の山。

 「でも是空さん忙しいんじゃ……」

 是空と呼ばれたバンダナの男は答えず、代わりに視線を送る。
 黙り込む管理官。
 えにるは意味が分からなかったが、深く考えてはいけない気がした。

 「では、そこのテーブルにどうぞ」
 手近なテーブルを指差して、バンダナの男はさっさと歩いて行く。
 その後ろ姿が、どういうわけか嬉しそうにえにるには見えた。


 「共和国を選んだ理由を訊いてもいい?」
 「猫が好きだからです。にゃんこラブ、です!」

 えにるは力説する。無駄に力がこもっている。迷いがない。
 ふむ、とバンダナの男は頷いた。

 懐から通信機を取り出し、どこかの誰かと会話する。二言三言。
 通信機の向こうから、了解の旨を告げる声が波のように返ってくる。

 「さて」
 続いて、懐から冊子を取り出す。シンプルな装丁の、白表紙の本。

 「にゃんにゃん全19ヶ国藩王に問い合わせましたところ、すべての国があなたの歓迎をしております。
  こちらを参考に諸国を漫遊してみてはいかがでしょうか?」

 改まり、丁寧な物腰で冊子を差し出すバンダナの男。
 えにるが受け取ると、表紙に猫をあしらった国旗が浮かび上がった。

 軽く驚きつつも、ぱらぱらとページをめくってみる。目に鮮やかなイラストと、丁寧詳細な文章。

 「もちろん、我がF.E.G藩国も貴女を歓迎し―」
 「あー、やっと見つけた!」
 叫び声と共に、バタバタと、遠くから騒々しい足音が近寄ってくる。

 立ち上がり、反射的に管理官の方を見るバンダナの男。
 すごい速さで目を背ける管理官。

 「藩王、時間迫ってます、ギリギリです!」
 「あー、わかったわかった」
 「わかってるなら尾行を撒いて姿消したりしないでください!」

 キンキンと響く声に呆然とするえにる。勢いに押されてくらくらとする。

 「……あー、それではよい旅を!」
  困ったような笑顔を浮かべるバンダナの男。そのまま引きずられるように遠ざかっていく。

 「ありがとうございました」
  えにるは頭を下げ、騒々しく去っていく親切な背中を見送る。

 手に持った冊子に視線を落とす。表紙に猫をあしらった国旗が描かれている本。
 国旗の上には、“にゃんにゃん共和国の歩きかた”と書いてあった。


/*/

 時は、戻る。

 見渡す限りの砂漠に最初は面食らっていたえにるだったが、早くも考えを改めていた。
 フィーブル藩国の街中は、意外なことに近代化が進んでいたのである。
 というか、緑がたくさんで立派な都会だった。

 「確か、この辺りだと聞いたけど……」

 手に持った本とは別に、懐から一枚の書状を取り出す。
 でかでかとした字で国民歓迎! と書いてあった。

 ちょうど親切そうな人を見つけたので、聞いてみることにする。

 「あのー、すいません」

 えにるの言葉に、黒いスーツを着込んだ男が振り返る。
 目元の黒いめがねが温和な印象。
 年の頃は二十歳前後。なんだかのんびりしているような青年だった。

 「はい、なんでしょうか」
 「これ、どこで募集してるか聞きたいんですけど」
 手に持った書状が見えるように青年の目の前に差し出す。

 「ふむ」

 真面目そうな雰囲気の青年は、書状とえにるとを見比べて不思議そうな表情を浮かべる。
 青年はしばらく考えるような仕草を見せた後、えにるの持っている本に目を留めた。
 途端に疑問が解けたという表情を浮かべる青年。

 「ああ、なるほど。あなたが例の……」
  少し考える仕草。
 「九織さん?」
 「久織えにるです。初めまして」
 ぺこり、と一礼するえにる。同時に疑問が浮かぶ。
 ―なんでこの人わたしの名前を知っているんだろう。しかも微妙に間違えてるし。

 えにるの視線に気付いたのか、青年は少しすまなそうな顔をした後、真面目な表情になる。

 「申し遅れました。自分は戯言屋、この国の華族をやっておる者です」

 今度はえにるが驚きの表情を浮かべる。
 本によると、華族とは藩国におけるかなり偉い身分ということだった。
 戯言屋と名乗った青年は、コホンとひとつ咳払い。

 「えー、久織えにるさん。ようこそフィーブル藩国へ。どうかこの国で……」
 言って、何故か視線を逸らす戯言屋。

 「……いやもう、下手したらもうすぐ滅びるけど」
 遠い目。

 「こんな状況でなければ、いろいろと普通に歓迎できたんですけどねえ」
  よよよ、と泣く真似をする。


 「………いや、それでも、ありがとうございます。ようこそフィーブル藩国へ」
  深々と礼をする戯言屋。感情表現の豊かな人である。

 「そんなわけですので、国民登録についてはとりあえず保留しておきます。
  この国を見て回り、その上で了承ということであればまた改めてご連絡ください」

 えにるは何だか恐縮して、はぁ、と情けない声を上げた。


/*/

 言われるままに国を見て回るうち、えにるは先の戯言屋の態度に納得した。
 ―なるほど、この国は近いうちに戦場になる。

 注意して見てみれば、国民の誰しもがどこかそわそわして落ち着きがなかった。
 食料品を取り扱う店の前には行列ができているし、それに負けじと日用品も大人気の様子。
 いつもは無邪気な子供たちでさえ、大人達を見て年齢不相応な態度になっている。

 「最近なんだか、親切な人によく会うなぁ……」

 実際のところ。
 そこが戦地だろうがどうだろうがどうでもいいのだ。
 えにるは危険を察知するのが得意な方であり、その能力を信用するのならば―
 理屈ではなく、理論ではないそれは、ただの言い訳にすぎないかもしれないが―

 感覚が告げる。大丈夫であると。

 「さて、また探さなくちゃね。今度はどんな表情をするんだろうなぁ」
  あの感情表現豊かで親切な人は、また複雑そうな表情をするのだろうか。

 なんだかわくわくしながら、軽い足取りでえにるは人探しを開始する。


 そんな彼女のただひとつの誤算。
 予想通り複雑そうな顔をした人に案内されるまま若干14歳の藩王に会い、そのあまりの不憫さにまた泣きそうになったことだった。


(word by 久織えにる)

月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
● 目次 ●
● 国立図書館 ● ...続きを見る
フィーブル藩国/国立図書館
2007/02/06 21:03

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
わたしがフィーブル藩国に入るまで フィーブル藩国 国立図書館/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる