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zoom RSS きゅうりお化けとねこのとりこ 後編

<<   作成日時 : 2007/03/03 22:40   >>

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 日も沈んだ頃。街角喫茶店店内。
 差し出された珈琲をカップの中で回すようにしながら、カウンター席に座るサイ=コーデルフィアは口を開いた。

「なんで、えにるさんがそんな格好をしているのかな?」

 店内では他に、赤松遠心が熱い緑茶をずずっとやってほっとした表情を浮かべている。
 
「これはその、バイト……です」

 バーテン服に身を包んだえにるは、照れくさそうに言った。
 いやでも、ここ喫茶店だよね? と言いかけて、サイは口をつぐんだ。
 口をつけた珈琲は苦かった。言葉が出ないほどに。

 砂漠の夜は芯から冷える。マスターが不在の街角喫茶店。

 赤松遠心は、それにしてもこのお茶濃いよなぁと、思った。

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「何者ですか」
「ふふふ。それはあなたも知ってるんじゃないかしら」

 意味深な言葉を吐く不審者。

「大人しくお縄頂戴するにゃ!」
 
 熱い台詞のシャウトと共に部屋の電気を点ける猫士。露になる不審者の素顔。
 果たして、その正体とは。

「でかあささん……」
「そう。アタシよア・タ・シ」
 
 きゅっ、とウインクする不審者もとい、でかあさ。
 えにるは少し顔色を変えて険しい表情になったが、何も言わなかった。

「でかあさ、泥棒にジョブチェンジかにゃ?」

 猫士は、相変わらず悪意のない言葉を発した。
 でかあさ、猫士の方に向き直る。表情を凍らせる猫士。
 口元は引きつり、ぶわっ、と尻尾が膨れた。

「ノンノンノン。これは治療よ、ち・りょ・う」

 立てた指を横に振るでかあさ。怯えて後ずさる猫士。
 でかあさの。顔から、突起物が生えていた。

「よ、妖怪きゅうりオカマっ!」
「いや、たぶんきゅうりをパック代わりにしてるだけかと……」
「そう、これは世を忍ぶ仮の姿なのよ」

 えにると猫士は互いに、いや、それはさすがに仮装パーティでも断られます(にゃ)、と心の中でつっこんだ。
 ついでに特撮モノでも怖すぎてダメだろう。子供が泣く、と思うのだ。

「事実は残酷っ。現実は過酷っ。掛け声とポーズで変身、ってワケにはいかないの……」

 ヒロインさながらの口調で語るでかあさ。断っておくが、ハスキーな男声である。

「これも、みーんな戦争が悪いんだわ!」

 目尻に涙をため、ぐっと握った拳。でかあさは世の中の不条理に対し、叫んだ。
 顔に貼り付いていたきゅうりが床に落ちる。きゅうりの下には、小さな吹き出物があった。

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 再び店内に移動した二人と一匹。
 無惨に散らかった皿を含めた清掃作業の手を動かしながら、でかあさは口を開いた。

「人生には潤いが必要よね」

 突拍子もないことを、言う。
 猫士は極力顔を上げないように作業を続け、えにるは困ったような表情を浮かべた。

「同じく、お肌にはビタミンが必要なの。美の追求には、不断の努力が必要なのよ」

 猫士は小声で、オイラ猫缶とマタタビがあればいいにゃー、と言った。
 もしそれがパーカー印付きなら、喉をごろごろ鳴らしても異存なし。

「時にえにるさん」
「は、はい?」
「あなた、なかなかいい肌してるじゃない」
「そうですか……?」

 特に手入れなど意識したことのない自分の肌を眺めて、えにるは首を傾げた。
 日頃から見慣れたモノなので、別段何とも思うことはない。
 
「よかったらアタシにもその肌を保つコツ、教えてくれないかしら」
「コツ、ですか」

 何か気の利いたコメントを必死に探すえにるだが、残念ながら彼女には美容に関する知識が不足していた。
 一応わたし女性なんだけどなぁ、と何処かの誰かに抗議する。

「きちんとご飯を食べて、たくさん寝ること……です」

 頬を赤らめるえにる。言ってることが猫さんと変わらない、と思ったのだった。

 ちなみに、気を抜くとすぐに度を越すのがえにるの悪い癖である。
 スイーツなら軽く4人前は食べてしまうし、寝癖を放置したまま外出したのも一度や二度ではない。
 お寝坊さんの上に遅刻魔なのだった。特に寝起きがどうしようもなく、弱い。

「あと、お化粧は軽め……がいいと思います」

 小声で付け加える。えにる自身が化粧をあまりしないので、説得力のなさは自覚するところだった。

「そうねぇ。肌が荒れちゃうわ」
「オイラ、化粧濃いの苦手だにゃ」

 うんうん頷きあう猫士とでかあさ。
 そこでふと、思いついたように猫士が首を傾げる。

「でかあさ。なんで、こんな乱痴気騒ぎしでかしたんだにゃ?」

 偏食の竜巻が通過した的な惨状を呈していた店内の様子と、目の前にいるでかあさの態度が結びつかない。

「……ビタミン。アタシの肌にビィタミン補給が必要だったのよ」

 ぽつりと語られる科白、独白。
 和やかな空気が一転、シリアスなものになる。 

「ミカンの缶詰めだけじゃ、ダメだったのよぉぉぉ」

 よよよ、と声を上げて泣くでかあさ。
 この辺り、詳しくはでかあさ氏本人によるレポート【一国民の戦争〜変態格闘】をご覧いただきたい。
 一応念を押しておくと、表題はアレだが全年齢対応である。お子様からご老人まで安心して楽しめます。

 それはともかく。

「猫がいてあんこがあれば、わたしは生きていける気がする……ッ!」
「ギブミー最高級パーカー印猫缶&ふわふわふさふさーなマタタビにゃぁぁぁあ!」

 突拍子もなくぶっ壊れるテンション。文脈とかそういうの、少しは尊重してみればいいのに。
 シリアスは数秒でギャグになった。ついでに暑苦しくなった。見苦しいことこの上ない。
 収拾つくのか、これ。

「あ。」

 くわっと目を見開いたえにると猫士をよそに、冷静極まる声を上げるでかあさ。
 るふぁしすてむ、と反射的に言おうとしてえにるは口をつぐんだ。
 
「ちょ、ちょっとお手洗いに行ってくるわね……」

 青い顔をしてお腹の辺りを擦りながらフェードアウトしていくでかあさ。
 果物の食べすぎは含まれる様々な成分の作用によりお腹がゆるくなることがあります。ご注意を。

「……寝坊した」

 奥に引っ込むでかあさと入れ違いで、入り口の方から声がした。ちりんちりんと、遅れて鈴の音が響く。
 ぴぎっと固まり、なにやら背中に汗をかきだす一人と一匹。

「……なんだこの匂いは」

 落ち着いた中にも不可解の響きを秘めた声に。
 さぁーっ、と青ざめ汗をだらだら滴らせる……とまではいかないが、ごくりと唾を呑む一人と一匹。

「おまけに変な張り紙があるな。なになに……」

 ふむふむ、といちいち反応していた声が止む。そのまま軽く首を傾げ、口を開く。

「愉快な人がいたものだ。
 どれ、その新作スイーツとやら、私も試食させてもらおうかね」

 店内で待つ一人と一匹の気などつゆ知らず、暢気な言葉を吐く紳士。
 だが。

「こ、これはどうしたことだ……」

 一歩踏み入れ、気分は一転。
 まず、この遅れてやって来たこの店のマスターは店内の惨状に言葉を失い、カクカクとカラクリのように首を振るえにると猫士に案内されるままに店の奥に到達。
 悪夢のような光景に、ぶっ倒れた。

 
 この後、二人と一匹に対し、罰として街角喫茶店での労働が課せられたのは言うまでもない。


                 (きゅうりお化けとねこのとりこ Fin)


補足:
 でかあさはその日完全に戦闘不能となり、えにるがでかあさの分も肩代わりしたという。
 世はまるっと事もなし。まる。

補足の補足:
 街角喫茶店にはその日より、でかあさ☆スペシャルという特別メニューが増えた……らしい。

 ちなみに。
 きゅうりに吹き出物を治癒する作用はないので、よい子のみんなは真似しないようにね。


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
シリアステイストな前編と、ギャグテイストな後編。
すいません嘘です、そもそもこれは元々一本のSSでしたと言ったら誰が信じるんでしょうか。
前編の長いのを読んで後編を読まれたあなたにお疲れさま。後編から読んでみたあなたには是非前編もどうぞと営業活動を。
アイドレス参加、未参加、所属藩国問わずどなたのコメントも大歓迎です。

最後に。
出演を快く引き受けてくれた、でかあささん、サイさん、赤松さんに感謝なのです。
久織えにる(の中の人)
2007/03/03 23:14
 兎にも角にも、でかあささんのキャラクターの立ちっぷりは異常であると思う日々の中、皆様いかがお過ごしでしょうか?

 感想としては、猫がラブリー過ぎます。いやもう、犬好きなのに、
もふもふしたくなりました。フィーブルの猫士さんは本当に可愛い
ですねぇ。

 …くっそう。犬だってかわいいんだよ?
刻生・F・悠也
2007/03/04 23:16
先が楽しみになる構成でとても面白かったです♪
前編の最後で、え?!マジで誰なん?!と楽しみになってしまいました。

それにしても、でかあささんは万能キャラですね。
万能家令ならぬ万能お釜みたいな?(笑)
ジョン=ウォーカー
2007/03/05 18:42
ども。吹き出物もそうですが、鼻の黒ずみも気になる乙女です。

前半がシリアスだった分、爆笑させて頂きました。そして猫士さん可愛かったです。

えにるさんの次のSS、楽しみにしてるのでまた何か書いて下さいね〜
でかあさ
2007/03/12 11:49

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