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<<   作成日時 : 2007/05/20 02:24   >>

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 その猫は黒くて勇敢で強かった。
 ただ、相手が強すぎた。それだけのことである。

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 猫には牙があれば爪もある。夜目もきくし耳もいい。鼻もきく。関節が柔らかいから高いところから落ちても平気で着地したりする。
 一日の大半はやることがないから寝て過ごし、夢を見ながら狩りの日々を追想する。
 気まぐれに飼い主と戯れるものも居れば、野良としてその日その日を生きている者もいる。

「どうにもならんか……」

 鉄くず寸前まで痛めつけられた機体の中で、黒猫はそっと呟いた。
 深いため息を吐く。

 深く抉られ原形を推し量ることができないほどに破壊された頭部。無惨にもがれた四肢。装甲は爆ぜて剥がれ落ちており、唯一コックピット周辺だけが物理的な意味での全壊を免れていた。
 コックピット内部にしても計器類は既に反応しておらず、あちこちで火花が散っている。モニターも沈黙していた。
 外の様子が見えていてもどうせ目が痛くなるような極彩色しか見えないのだろうが、それでも空が見たいと黒猫は思った。

 そもそもこの機体には操者がいなかった。
 黒猫は最後の生き残りであり、最後の希望だった。人類は猫よりも先に絶滅しており、猫もまた黒猫を残して絶滅した。そして、世界も間もなくその命を終えようとしている。

 残された最後の機体。
 人工知能のプログラムを走らせ、黒猫自身がそれをサポートする形式で動かしてはいたが、もはや機体は何の反応も返さなくなっている。自己修復機能は魔術汚染で真っ先に逝ってしまっていた。

 戦う前から結果はわかっていたのだ。その気になれば一撃で機体ごと消し飛ばすことなど造作もないことであり、現にまだ黒猫が生きているのも敵にその気がないからにすぎない。防御陣すら張ることができない機体数では、防御壁すら展開できない機体では――元より操者がいない状態では。

 勝てるはずないということなど、ほぼ全ての生命体が既に歴史上から絶えていることを思えば当然の話である。

 猫には牙があり爪もあるが、だからどうしたというのか。所詮猫は猫であり、世界を無に帰すほどの理不尽に抗うだけの力など備わってはいなかった。この世界のどの生命も、そのような力はついに持ち得ることはできなかった。

 スクラップ同然となった機体を取り囲むように、人形のようなフォルムをした機体が展開していく。人形の群れの中で、一体の異形が口を歪めて嗤った。

「無駄な抵抗はやめて素直に核石を渡したらどうだ」

 異形は影のように深い黒色で、まばたきをすると見失う、そんな奇妙な存在感を漂わせていた。
 時折姿が透けているようにも見え、そもそもそこにいないのではないかと思わせるほどの希薄さを纏っている。

「……断る」

 黒猫は首輪に埋め込まれた灰色の石のことを思った。観賞用ではなく、工業的な使い道があるわけではなく、呪術的な役割を果たすわけでもない。路傍に転がる石ころと何ら変わらないように見える石。

「ならば仕方がない。この世界と共に消えてもらおうか」

 異形が腕を伸ばす。
 時間は吐いて捨てるほどある。どうせ黒猫を始末してしまえばそれで実質的に世界は終わるのだ。それならば世界ごと崩壊させるに十分な威力になるまで時間をかけるのも悪くはない。

 伸ばした手で印を結び、空いた手を黒猫の機体に向ける。
 同時に紡がれる、地平の果てまで響くような低い音律。

 異変は黒猫の機体の背後に小さなプラズマ光が発生したところから始まる。
 プラズマ光は螺旋を描くように空間を巡り、やがて仄暗い一筋の線を形づくった。
 続いて幾重にも張り巡らされた魔術式が黒猫の機体を取り囲み、膨張し、取り囲む人形達をも巻き込んでなお拡張を続けていく。

 その呪われし光景の中心となった機体のコックピットの中で。
 黒猫は小さくにゃーと鳴いた。
 伝わるべき音は既に役目を果たしていなかったが、黒猫はそれでも口を開いてにゃーと鳴いた。

 それが何のためだったのか、目的はわからない。


 永遠とも思えるような時間が経った後、仄暗い一筋の線は静かに消えていき、それを合図とするかのように魔術式が千切れとんだ。

 世界が消滅したのは、そのすぐ後のことである。

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