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zoom RSS ぶっちぎり(技術)

<<   作成日時 : 2011/01/16 00:29   >>

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画像

バトルハッカー。
それはフィーブル藩国情報軍に所属する、情報戦歩兵の名である。
最速で動いた指先が、ARで作られた仮想キーボードを叩く時、彼らの戦いは始まるのだ!
合言葉は―― ぶっちぎりだぜ!!




L:ぶっちぎり = {
 t:名称 = ぶっちぎり(技術)
 t:要点 = モヒカン,最凶,最速
 t:周辺環境 = 軍団



<ぶっちぎりの概要>

1:勝負で大差をつけて勝つこと。
 日常的に使うであろう意味はこちらである。競争や競技など、速度や記録を競う勝負などで用いられることが多い。
 正確には「打っ千切り」と書き、不良少年や不良少女が書く場合は「仏恥義理」と書かれる場合が多いようである。

2:バトルハッカーの合言葉。
 バトルハッカーは、フィーブル藩国の情報軍に所属する、情報戦技術の粋を結集した情報戦および対情報戦に特化した情報戦歩兵である。ただの人間でありながら、TLOに頼らず、高度な情報技術による悪質な犯罪や、国際的な電子犯罪、そして戦争において決して負けることが許されない情報戦に、ぶっちぎりで勝利することを目的として結成された。ぶっちぎりという言葉は、バトルハッカーの存在意義と、そのための努力や意地や誇りを表した、彼らの合言葉になっているのだ。詳しくはバトルハッカーの設定ページを参照されたし。

3:バトルハッカー専用の情報戦技術の通称。
 ぶっちぎりとは、サイボーグ化や電脳化に頼らず情報戦歩兵として戦うために開発された、バトルハッカー専用の情報戦技術の通称や、それを用いた勝利を意味する。主に強化現実上の仮想キーボードを叩くという行為がぶっちぎりの根幹となっており、本ページでは、この情報戦技術としてのぶっちぎりについてを記述する。



<バトルハッカーとは!?>

 フィーブル藩国情報軍。
 共和国の情報の守りを名乗るこの軍団は、エリート達の技術集団である。

 例えば、情報士官の多くは情報軍養成学校から情報戦の専門高等教育を受けて、厳しい訓練や試験に合格して任官し、そこから多くの部下達を率いて、昼も夜も平時も戦時もなく、情報の海で戦い続けることになる。彼らが戦場に出て命を落とすことは少ないかも知れないが、しかし情報の重要性を誰より理解しているが故に敗北は許されない。彼らの情報に命を預ける兵士達がいる限り、諦めも妥協も許さず、己の計算と結果こそを誇りとし、理性と知性を武器に戦い続ける、ただの人間からなる情報の守り手達の集団。それがフィーブル藩国の情報軍である。

 そんな情報軍の中でも、バトルハッカーは特殊な部隊である。
 理性と知性を武器に、己の計算と規律を重んじ、徹底した現実主義を貫く普通の情報軍の軍人に比べると、バトルハッカーは厳しい訓練や試験をクリアしているものの、基本的に民間からのスカウトによる登用ということもあって、才能に比例して個性が強く、任務こそ果たすものの一癖も二癖もある人物ばかりという印象であった。これはバトルハッカーの存在意義が、ぶっちぎりで情報戦に勝つことを目的としており、対情報戦という完全な勝負の世界での強さを求めるが故に、通常の養成機関や訓練では育たない突出した才能を持つ得難い人材こそを求めているからである。

 バトルハッカーが求めているのは、平均化された個性や価値観による強さではない。
 それは結局、ただの「1人」の集合に過ぎない。これまで時代の流れと共に進歩し、これからも急速に変化し続けていくであろう情報技術に、やがてその「1人」は追いつけなくなり、いつか致命的な状況に置かれて死ぬ。そうなったら詰みである。組織の硬直化を防ぐためにも、混沌とした多様性の中で磨かれた強さをバトルハッカーは求めていた。

 最高の職人による機能美と装飾美を兼ね備えた美しい剣が情報士官ならば、刃毀れもあれば血で汚れてもいる粗野で無骨な戦場の刀がバトルハッカーである。情報戦の強さは当然として、手放すのが惜しい特異な才能や、専門家とは別の視点から自由な発想やユニークな技能、情報軍が動かせる歩兵部隊としてなど、情報軍における価値は計り知れない。警察機構と共同で犯罪捜査に参加したり、TV番組のヒーローのような外見もあって、一般人の支持も悪くはない。情報軍のイメージ戦略としても上々であった。

 そんなバトルハッカーを語る上で外せないのが、バトルハッカースーツの存在である。
 このTV番組の特撮モノのヒーローのような外見の特殊スーツは、パソコンの機能をスーツの形にしたものであり、情報戦を行うための機能と、歩兵として求められる機能を繊細に組み合わせることに成功した、芸術品ともいえる装備である。まさに情報戦歩兵を体現したスーツであり、どんな状況でも情報戦を最大限に行うことを目的として、さまざまな機能が備わっている。

 頭部のフルフェイスヘルメット、通称ウィザードメットには、ウイザードヘッドセットから応用したAR技術を含めた各種センサが組み込まれており、腕部のデータグローブにはフィーブル藩国の光ファイバー技術を用いられている。このデータグローブが腕や指先の動きを情報として送ることによって、ウィザードメットを通して視認できる強化現実上の仮想キーボードに入力することが出来るのだ。入力に合わせてデータグローブの内部が僅かに変形することで、指先が触れた感触まで再現できるので、かなり自然なキーボード入力が可能となった。

 この、強化現実上の仮想キーボードを叩くという技術が、バトルハッカーの情報戦の根幹である。
 これによってバトルハッカーは、各個人の手の大きさや癖に合わせてデザインおよびカスタマイズされた最適化された仮想キーボードを、左右に分割したり強化現実上の指先に固定させることで、指先の動きさえあればどんな状況でも入力が出来るようになったのだ。この「自分のためだけの仮想キーボード」を用いることによって、バトルハッカーは歩兵として運用されつつも、すぐに情報戦使いとして最速のデータ入力が可能となったわけである。

 仮想キーボードと、歩兵としての運用を合わせるという、バトルハッカーでしかありえない特殊な情報戦技術。
 この行為を、バトルハッカー達は己の生き様のように、ぶっちぎりと呼ぶのだ。
 どんな状況の情報戦であっても、ぶっちぎりで勝つために。



<バトルハッカーとモヒカンヘッド>

 モヒカンと7つの世界の関係は少ない。
 7つの世界でモヒカンといえば、秋津隼人の日曜ロック仲間である静寂か、雷王の部下にそれっぽい人物がいるくらいである。これらはフィーブル藩国とは遠い関係性にあり、では単純にロッカーや不良少年と縁があるかと言えば、それも微妙なところである。インテリ系の実力ある不良少年がスカウトされてバトルハッカーになる例は存在するかも知れないが、藩国のイメージを考えるとモヒカンである確率は低いだろう。晴耕雨読を好む素朴な人々。それがフィーブル藩国の国民性であった。

 しかし。
 フィーブル藩国では、もっと確実にモヒカンに影響力を与える存在がいる。
 文章作成者がぶっちぎりの要点を見て彼のことだと言う以外なかったほどに、フィーブル藩国でモヒカンといえば彼であり、彼といえばモヒカンであった。

 彼または彼女の名は、でかあさ。
 夜明けを呼ぶ紫の髪のモヒカンであり、オカマ口調で喋る気の良い漢である。どんな容姿なのかは、こちらのイラストを見れば分かることだろう。

 でかあさはフィーブル藩国において勇者と呼ばれている。
 その経緯は遡ること2007年1月7日。イベント関係でシロ宰相に質問するためにセントラルチャットに入室したでかあさだったが、運悪くシロ宰相と有名プレイヤーが会話中であり、当時のアイドレス始まったばかりの小国フィーブル藩国の一般国民にとっては、この二人の会話に入って質問をするというのは、かなり勇気がいる難事であった。記録によると二人は面白い話をしていたらしく、そこに真面目な質問をするのは大変だったとあるが、そういえば自分も様子を見守っていてガクブルしていた記憶がある。これを成し遂げたことから、フィーブル藩国はでかあさを勇者と称えたのであった。

 同時に、でかあさは自由な存在でもあった。
 男が好きな漢で、普通に黒オーマにお見合いに出たり、そういえば文章作成者も何度か言い寄られていた気がする(今となっては良い想い出だ……ろうかっ)のだが、昔の小笠原ゲームでピドポーション使って女になって八重咲桜子をぶっ倒れさせたり火星人とか言われたりした後、今度は「女も好きだわん」とか言っていたような気がする。さらにロール時には包容力のあるさまざまな意味で力強いキャラだったのだから、もはや個性の塊ともいえよう。

 でかあさはモヒカンであり、勇者であり、自由であり、彼は漢であった。あと女でもあった。
 以上をもって文章作成者は、フィーブル藩国におけるモヒカンにおいて、以下のように定義したい。

 モヒカンとはフィーブル藩国にとって、勇者の髪型であり、漢の髪型であり、自由の髪型である。と。
 これはモヒカンの髪型にするには勇気や自由が求められることからも証明できるだろう。しかし実際にあった出来事とはいえ、フィーブル藩国とモヒカンにそんな由来があることや、でかあさのことを知る国民は、もうずいぶんと少ないことだろう。

 そのモヒカンとバトルハッカーが結びついたのは、全くの偶然であった。
 ウィザードメットの頭頂部に、直角三角形のような形の小型レーザースキャナーが取り付けられたのである。これは三次元レーザースキャンによるAR機能の強化を目的として開発されたものであり、ここで得た情報を地上戦闘情報共有システムと組み合わせ、それぞれのバトルハッカー達と連携することによって、より精密な地形情報の収拾や、作戦や戦術の立案や指揮が可能となった。これは見た目がモヒカンや鶏のトサカに見えることから、「モヒカンヘッド」という愛称で親しまれることになる。

 小型とはいえ高価な物なので、このモヒカンヘッドはエース級のバトルハッカーのみが装備することを許されている。
 そこには、やらなければならない使命を全うせんとする、勇者の意志が宿っているのだ。



<ぶっちぎりSS:戦場のバトルハッカー>

 天気は憎らしいほどの快晴。
 照りつける日光は厳しすぎて、兵士達の肉体と精神を溶かすようだ。

 敵に占領された都市を奪還する大規模攻勢作戦だった。断続的な銃声、爆発音、振動、人の怒鳴り声…… 市街地での戦闘は激しく、大通りを数十メートル前進するだけで何千発という弾丸が消費されていく。そんな膠着した状況を打破するために敵本隊を側面から強襲するという任務を与えられた俺達の歩兵部隊は、いつ敵部隊と遭遇するか分からない緊張感に神経を尖らせながら、油断なく周囲を警戒して前進していた。

「たまんねえな」
「まったくだ」
 部下達が建物に背を預けながら叩く軽口も硬く、無線が知らせる状況は悪化の一途を伝えてくる。頬を流れる汗を拭く余裕もない。呼吸を整えてから合図で一斉に街路を突っ切る。幸い狙撃もなく移動に成功。そろそろ目標地点に到達する。その後は大通りで銃撃戦をしている味方部隊とタイミングを合わせて、一気に側面から敵本隊を強襲する手はずだった。

「おい。もっと頭を低くしろ。モヒカンが出てるぞ」
 俺が声をかけたのは、奇妙な全身スーツを着た兵士だった。
「……すまない。まだ慣れてないんだ。頭のやつは」
 返ってきたのは、くぐもった電子音の声。フルフェイスメットに隠れて表情は見えず、常に両手の指を忙しなくワキワキと動かしている。何も知らないものが見れば狂ったサイボーグか何かだと疑うところだろう。

 この特撮ヒーローじみた特殊戦闘スーツに身を包んだ兵士は、バトルハッカーという情報戦に特化した歩兵だ。
 上層部からの説明によると、敵の部隊に国際指名手配中のテロリスト系ハッカーがいるとかで、わざわざフィーブル藩国から派遣されてきたらしい。俺も最初に見た時は何の冗談だという感じだったさ。都市戦用の迷彩こそされているものの特殊戦闘スーツは目立つし、あんな特徴的なトサカだかモヒカンを付けていれば「ここに情報戦歩兵がいますよ」と敵に教えているようなものだ。いい狙撃の的である。しかも銃火器を持っていないので戦力としては期待できない。とんだお荷物だ、と思ったよ。

 だが、ここまで敵本隊に近づけたのは、この奇妙な兵士のおかげでもあった。
 バトルハッカーは、このあたりの地形や建物のデータ、都市に仕掛けられた監視カメラの映像、地上戦闘情報共有システムなど、あらゆる情報技術を駆使して、敵味方の動きを含めた戦況の把握に努めていた。電子世界の僅かな情報をかき集めて、的確な移動経路の選択や、別の場所で行われている戦闘を考慮した移動タイミングなんかをちくちく教えてくれる。戦場と情報を繋ぐ、まさにバトルハッカーというわけだ。あの指をワキワキさせてるのも仮想的なキーボードを叩いてるらしい。

 ……しかし、俺はハッカーというものが気に食わない。
 奴らは大体がオタクの犯罪者予備軍で、覗き見が趣味な変態達だ。そういった人種が技術を持っているというのは気持ちが悪いし、さらに言えば俺の部隊がそんなやつの情報技術で生き長らえているというのは落ち着かない気分だった。しかし任務は任務だ。俺はそういった私情を完全に無視して、冷静な指揮を続けていた。

「目標地点までどれくらいだ?」
「残り22.3メートル。十字路を2つ越えたところ」
「……狙撃手か、待ち伏せの部隊がいる気配がするな」
「なんで分かる?」
「俺ならそこに仕掛ける」
「都市の監視カメラに映ってるかも知れない」

 バトルハッカーの指が高速で動いた。
 この規模の都市だと、治安目的で市街地のところどころ街頭に監視カメラが設置されていることが多く、それを利用しているわけである。仮想キーボードを叩くバトルハッカーの姿は、戦場だと恐怖で震えているように見えなくもないが、よく見れば動きそれ自体は極めて落ち着いているようだった。

 この厳しい戦況で冷静にキー入力しているのは評価できるな、と俺は考えた。
 元はハッカーやギーク、情報犯罪者らしいという噂だが、熟練した歩兵部隊の移動にも遅れず着いて来ているし、そのあたりは悪くなかった。実戦経験はまだまだ足りていないようだが。

「見つからないな」
「相手はプロだ。そうそう見つからんさ」
「そういうものか」
「そういうものだ。覚えておけ」

 さて。どうするか。
 現状は敵のほうに流れがある。時間をかければ大通りの味方が押し負けてもおかしくない状況だ。そうなれば奇襲のチャンスは消えて、あとは時間の問題で追い詰められるだろう。地下の下水道が使えないだろうか? いや、そっちはすでに別の部隊が敵の待ち伏せを食らってやられている。ではどうするか。

「……変だな」
「どうしたモヒカン?」
「監視カメラのいくつかに妙な……ハッキングの痕跡を発見。映像データの一部が改竄されてる」
「なんだと。どういうことだ」
「敵のハッカーだな。どうやら敵も監視カメラを利用して移動していたらしい。その上で映像から痕跡を消したようだ」
「改竄されている監視カメラの場所は分かるか?」
「分かる」

 バトルハッカーの情報から推測すると、どうやら敵もこちらと同じ側面から味方を叩く部隊を動かしているらしい。
 俺達は監視カメラを避けて移動していたが、敵部隊は監視カメラに映ってもお構いなしでカメラに映った部分は改竄していたようだ。下手をすればその部隊と出会って交戦した可能性もあったが、これは俺達にとっては良い情報だった。逆に言えば、改竄された監視カメラはそのまま敵の移動した経路ということになるのだから。

「間違いなく待ち伏せ部隊がいるな。よくやった。迂回して本隊を狙おう」
「待て。隊長。これは罠の可能性がある」
「……なんだと?」
「罠だ。このハッカーはあえて痕跡を残した可能性が高い。迂回した付近で待ち伏せ出来るポイントはないか?」
「確かにある。しかし、そんなことがありえるのか? それはつまり……」

 つまり敵のハッカーは、こちらのバトルハッカーの動きを予想して罠を張ったということだ。
 もっと言えば、こちらにバトルハッカーがいることに気付いていたということでもある。

「ハッカーがあえて痕跡を残したと何故分かる?」
「移動しながら映像を改竄するのは高度な技術だが、それにしては素人くさい編集をしているのが目立つ」
「本当か? 何か証拠みたいなものはないのか?」
「強いて言うなら………俺ならそこに仕掛けるからだ」

 俺は少しの間、このフルフェイスメットの奇妙な兵士を見つめた。
 信じがたい話ではある。こいつの妄想かも知れない。元はハッカーやギークなのだ。
 だが、ここまでのこいつの情報技術や判断に、間違いがなかったのも事実だ。それにもし噂通りバトルハッカーに元情報犯罪者がいるなら、そうした狡知には長けているかも知れない。

 ……決断を悩む時間もない。
 俺は冷静に判断した。こいつは歴戦の兵士ではないが、俺も情報戦のプロではない。

「分かった。迂回と最短の中間のルートで行く」
「すまない」
「謝る必要はない。互いにプロの仕事をするだけだ」
「了解した」

 この後、俺達は中間ルートを突き進むことにしたわけだが、通りのひとつ向こう側に敵の歩兵部隊、さらにI=Dが待機しているのを発見した時は、さすがに肝が冷えた。敵は迂回ルートを選んでいたら一網打尽にされていた可能性が高い場所に潜んでいたのだ。部下達にも緊張が走った。

「うわ、I=Dか。空気読めよ……」
「位置が近すぎる。うまく通り過ぎても敵本隊を攻撃する際に挟撃に遭うぞ、これは」
「やるしかないっすね」
「そうなるな。奇襲を仕掛けて敵部隊を蹴散らし、返す刃で大通りの敵本隊を味方部隊と連携して攻撃するか……難しいな」

 敵だから当たり前だが、いやらしい場所に兵を置いたものだ。
 とはいえ今回はこちらの読み勝ち―――いや、あのバトルハッカーの勝ちだろう。しかし、敵のテロリスト系ハッカーの悪意さえ上回るバトルハッカーという存在は、まさしく敵にしたくない相手だ。なるほど。元情報犯罪者だからこそこうした匂いが分かるということかも知れない。凶悪なハッカーを狩るための、最凶のハッカー歩兵ということか。

 ともかく、問題はI=Dだ。
 あれさえ破壊すれば戦力的に目の前の敵部隊は散り散りになるだろう。しかし交戦が長引けば敵本隊からの増援と挟み撃ちにされかねない。迅速にI=Dを破壊しつつ、さらには大通りで交戦している味方部隊とうまく連携しなければならない。難度の高い作戦だった。しかも悩んでいる時間もあまりない。ここまで来たらやるしかなかった。

「隊長。俺に提案がある」
 電子音でそう言ったのは、バトルハッカーだった。

「何か考えが? 一応言っておくが、ここからは俺達の仕事だと思うぞ」
「俺ならハッキングでI=Dを何とかすることが出来る可能性がある」
「どれくらいかかる?」
「……少し時間がかかる」
「なら却下だ。今は時間が惜しい局面だ」
「ただ、I=Dの外部にあるコントロールパネルから直接接続さえ出来れば……」
「不可能だ。敵に気付かれずそこまで接敵するのは難しいし、周囲には歩兵部隊もいる。ハッキングする時間はないだろう」
「死角から忍び寄ればいける可能性がある。それならハッキング自体にほとんど時間はかからないんだ」

 ……ヒーロー気取りだと俺は思った。
 さっき敵の配置を見切ったのは掛け値無しに良い腕だったが、まあ、ハッカーならそんなものかも知れない。目立ちたがり屋というやつだ。俺は注意すべきだと考えて口を開いた。こういうお調子者は死にやすいのだ。

「……おい、モヒカン。お前の仕事は情報戦だろう。今は俺達の仕事だ。口出しするんじゃないぜ」
「そうだ。だからこうして提案している」
「何だと?」

「…… バトルハッカーは、どんな状況であっても情報戦で勝つために存在している。そのために俺は厳しい訓練を重ねてきた。その全ては、今みたいな『ここで情報戦さえ出来れば勝てる』という状況で、必ず情報戦をやり遂げるためにある。あのI=Dをぶっちぎれば勝てるなら、俺は命を賭けてぶっちぎる。それがバトルハッカーの戦場で……これがバトルハッカーの生き様だ」

「今の状況がお前の戦場だと? 銃も持たないお前が?」
「そうだ。俺は情報戦使いであると同時に、情報戦を遂行できるための歩兵でもある」

 自分は歩兵でもある。こいつはそう言いやがった。
 鏡で自分の姿を見てから言えと、そう怒鳴ろうかと思ったが、相手の言葉が静かだったことが俺を冷静にさせた。

「……なぜ、そこまでやる必要がある。お前はハッカーだろうが」
「ハッカーという言葉に、善悪の概念はない。あれは本来、優れた情報技術者のことを指す言葉だ」
 そうだったのか。いや、だからどうした、と俺は思った。
「俺は……ハッカーという言葉を、善いものにしたい。そのためにここにいるんだ」

 俺達は睨み合った。
 いや、相手の表情は隠れて見えないが、確かにそんな視線を感じていた。
 どうやらこいつは、とんでもない頑固者のようだった。愚かにも見える。
 しかし誇り高いやつというのは、案外そんなものかも知れない。

 俺は考えを改めることにした。
 こいつはヒーロー気取りの目立ちたがり屋ではない。
 誇り高い、戦場のハッカーだ。
 それさえ分かれば……問題はない。

「……分かった。いけると思ったらいけ。好きにしろ」
「了解。感謝する」
「たとえ兵科や藩国が違おうと、互いにプロの仕事をする。それだけだ。……死ぬなよ」

 俺達は奇襲を行った。
 奇襲というものは一瞬で決まる。合図と同時に、俺の部下達がI=Dの周囲にいた兵士達に射撃を開始。同時に対I=D用のロケットランチャーが撃ち込まれる。1発しかない切り札だったが、ロケット弾はI=Dのコクピットに無事に命中……するよりも一瞬だけI=Dの反応が早い。ロケット弾はコクピットではなく左脚の付け根に命中。しくじった。I=Dは大きく姿勢を崩したものの腕部の火器は健在。生き残った敵歩兵と合わせて、大量の銃弾がこちらに殺到する。まずい状況になった。膠着してしまうと応援を呼ばれるのでこちらに勝ち目はない。

 何かが投げ込まれた。
 こちらに、ではない。あちらの敵部隊に、である。
 煙幕弾。たちまちに白い煙が足下から立ちのぼる。

 敵味方の視界が、薄いスクリーンで遮られるその直前、俺は見た。
 それは切迫した状況でありながら、どこか現実感に欠けた光景だった。
 銃弾が飛び交う戦場の真っ直中で、武器も持たずに駆け抜ける、その姿。

 天を衝く怒りのシルエットが、敵I=Dに向かって駆け出していた。
 おい! と叫びそうになって、俺は硬直していた。そいつは走りながらも、その指先が平然と動き回っているのを見たからだ。
 俺は震えた。こんな状況であっても震えもせず、そいつは狂ったように冷静にキーを叩いていやがったのだ。

/*/

 ……それは、どんな状況であっても情報戦で戦うために鍛えられた、意地という名の無骨な刀。

 最速で電子世界を操る、凶悪を狩る最凶の情報戦使い。
 情報を奉じる軍団から使わされた、戦場と情報を繋ぐ新しい歩兵。
 その名は、バトルハッカー。
 その生き様は、ぶっちぎりだった。

/*/

 白い世界を、バトルハッカーが駆け抜ける。
 ウィザードメットのシステムをARモードから移動補助のVRモードに変更。モヒカンヘッドと地上戦闘情報共有システムで作られた仮想空間を頼りに全力移動。敵も気付いて慌てて射撃するが、惜しいところで当たらない。この煙幕の中、まるで敵の位置と視界と射撃範囲を完全に把握しているような、そんな不意と死角を突いた絶妙の移動だった。隊長の指示による畳み掛けるような味方部隊の銃撃が、敵歩兵の行動を抑えにかかる。

 その隙に、再びARモードに切り替えて、煙幕を抜けたバトルハッカーが敵のI=Dに接近する。
 I=Dの攻撃が、なぜかギリギリ間一髪で当たらない。すでに敵I=Dの照合は終わっており、破損した左脚によって出来た死角と、武装の射程距離や攻撃範囲、武装を動かす腕部の稼働速度などが、バトルハッカーの視界にARで立体的なラインとして引かれている。秒単位で変動するその境界を避けながら、バトルハッカーは敵I=Dとの距離を詰めていく。

 そして、すぐにARモードから光学モードに切り替えた。
 情報技術による先読みは完全にはほど遠い。こんな超近距離では処理も反応も追いつかないのである。情報戦使いは、情報戦を使う側であって、情報戦に使われる側ではなかった。バトルハッカーは冷徹に最新の情報技術を捨てて、そこから先は身体に覚えさせた訓練と経験だけが頼りだった。

 I=Dの稼働範囲の死角から、這うような体勢で接近。暴力的な勢いで頭上を通り過ぎる、I=Dの腕部。
 踏み潰されないようタイミングを見切り、脚部にあるコントロールパネルに有線接続。
 最速で走った指先が、仮想キーボードの上を走って――それで、終わりだった。

 数秒後、I=Dの銃口が火を噴いた。敵の歩兵部隊に向けて。
 バトルハッカーの指先は、操り人形の糸を操るようだった。
 続けて味方部隊が挟撃を開始。敵の歩兵達は散り散りになり、敵I=Dは無力化に成功した。

「……信じられないことをするな、お前は」
 駆け寄ってきた隊長は、呆れるべきか感心するべきか怒るべきか、何とも言えない声だった。
 あれだけのことをやらかした本人は、激しく呼吸を繰り返しながら、地面に腰を下ろしていた。さすがに緊張の糸が切れたなと隊長は心の中で笑いながら、バトルハッカーが立ち上がるのに手を貸した。

「……俺は無理をしていない。ただ、ぶっちぎっただけだ」
「なんだ、それは」
「自分のやれることをやれる範囲でやれるだけやる。結局のところ、ぶっちぎりとはそれだけだ」
「それにしては危うかったぞ」
 バトルハッカーは、バトルハッカー達の司令の言葉を思い出した。

「どんな賢者も英雄も、己だけでは得られぬ物がある。怯む背を押す熱を持った何か。……人、それを勇気という」

 隊長は少し考えた後、苦笑した。
「俺達が支援すると信じていたのか」
「俺をスカウトして厳しく訓練させた奴や、この奇妙なスーツを作った奴のこともな」
 ふと隊長は、このバトルハッカーの表情がフルフェイスで見えないことを残念に思ったが、しかし、それでも構わないと考えた。
 ここにいるのは歴戦の兵士達と情報戦のプロである。それさえ分かれば、戦場では満足だった。

「では行くぞ、バトルハッカー。これより敵本隊を側面から攻撃する。支援を頼む。気を抜くな!」
「了解した。俺は電子世界のフェダイーン。己が誇りと自由を賭けた、もはや名も無きバトルハッカーだ。ハッカーの敵は、バトルハッカーがぶっちぎる!」

 ……ネットの広大さと自由を愛し、金や損得では決して動かない、誇り高い戦士達。
 それ故に戦場を渡る情報戦使いになろうとも、己が定めた炎の道を、ただ真っ直ぐに最速で駆ける生き様よ。
 彼らの名は、バトルハッカー。戦場に潜む電子の悪意を、今日も彼らはぶっちぎる―――!



イラスト:フィーブル
文章:戯言屋

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