這いよる終焉、託された想い
フィーブル王城の片隅にテラスがある。
西国の強い日差しを遮るが、かと言ってジメジメもしない計算された位置に設置されたテーブル、季節の花が植えられた色彩豊かな花壇、蔓草の這う緑の城壁。規模はこじんまりしているが、立派なテラスと言って差し支えない代物である。
だが、ここに来る者は普通いない。外来の者はそもそも入ってこれないし、かと言って自由に立ち入りが許可されている城内の者でも中庭があるため、普段はこんな隅っこまで足を運ばないからだ。
となると、何故そんな微妙な場所に手入れの行き届いたテラスがあるのだという話になる。
それには話せば短いが、何とも捻くれた物語がある。
まず、元々ここは特に何に利用されているでもない唯の裏口前の空き空間であった。あったのは物置くらいである。
で、物好きかつ迷惑な何者かが、そこを耕して肥料をまいて、草花やら木やら見境なく植えて、裏庭とも家庭菜園とも呼べない奇妙な空間を作り出した。
まあ、賢明な読者の方は分かると思うが、後先考えない事に定評のあるスフィア=ラスタリア=フィーブル藩王、その人である。
知っている人は知っているかもしれないが、この国の藩王は本当に切羽詰まった時しか働かない。摂政が優秀過ぎるからである。
なら、普段何をしているかというと、国民に混じって畑を耕していた。あと王猫と散歩していた。
一応、幼すぎる藩王と実務を執り行う摂政という図式ではあるはずなのだが、どちらかと言うと隠居みたいである。いや、どちらかと言わなくても、老ネコと戯れて、農作業に明け暮れ、(紅)茶をすする姿は隠居そのものである。
しかし、そんな農作業も長くは続かなかった。念のため言っておくが、作業が辛くて無理とか、そう言った事ではない。
周りの住民が世話を焼き始めて、かえって負担が増大するという事態が発生したのである。変装をしなければ、散歩もままならない状態である。
鍬も取り上げられて、どうぞ我々にお任せ下さい状態になり兼ねなかったので、仕方なく撤収する事と相成ったのである。
だが、そうなるとまた手持ち無沙汰だ。
結局、何もしないよりは何かしながら考えようと、藩王は深く考えもせずに適当な誰も使わない所で農作業を行う事にした。(天の声:いや、書類に目を通して下さい、藩王殿)
しばらくは、そうやってできたカオス空間がそのまま放置されていたのだが、ある時誰かがその存在に気付いた。
そこからは早いもので、いつの間にか適当に持ってきたテーブルセットが綺麗なものと取り替えられ、芝生が整備され、いつの間にかテラスと化してしまった。
誰が整備したのかは、未だに不明である。聞いても誰もが知らないと答える。なので、これは王城七不思議だ。と、藩王は思っている。
/*/
スフィアは、カップの中の黄金の空を眺めていた。
そろそろ、日暮れだ。巣へと帰る鳥達も結構前に通りすぎていった様に思う。緑地化が進んだといっても、砂漠の夜は冷える。そろそろ、中に入った方がいいだろう。
今度は、直接黄昏の空を眺める。
平和だ。
だが、分かっている。もうその時が近い事は。
最近、嫌な話が入ってきている。ここも平穏無事で済むわけがない。
世界が加速を開始している。歴史が進み始めるのだ。
永遠に引き伸ばされた数瞬の平和が終わろうとしているのだ。
(何をすればいいかは分からないけど、何かをしなければならない)
想うだけでは何も始まりはしない。だが、想いは力だ。実現しようと行動する限り、それは希望であり、夢である。
スフィアは、自分のオツムが弱い事を自覚していたが、故にゼロやマイナスよりは1でもプラスの方が良いといつも考えている。
(さしあたっては、量子演算システムか……)
次のイグドラシル。運命の枝。理不尽に対抗する為の力。だが……
(運命の枝に沿った力が、運命を打ち破れる訳がない)
敵は、運命だ。世界だ。
つまりは……
「ゲーム、つまり世界法則そのものだ」
元摂政をやめて執事になった。例のアレである。
あのナチュラルな<どや!>感は一種の才能ではないかと最近思っている。
「理由も設定もなく、人の心の声を読むな!」
奴は間合いの外だ。一足では届かない。二足では……決められない。
座っている上に、テーブルにティーセットが乗っているから、布石も出せない。
奴は計算している。そう言う学習能力……ギャグキャラが持つべきではない。
「殺る気満々なところ大変恐縮だが、今日は大事な話があってきた」
「お腹が空いて死にそうとか?」
「オレの扱い酷くね?」
「普段の行いってやつだよ!」
地団駄を踏みたい。椅子に座っているからやらないけど。
2Pカラーこと遊闇遊夜は向かいの席に座った。普通に。
「……本当に大事な話みたいだね」
「……オレ、今泣いても許されると思うんだが?」
「それでなにかあったの?」
このままだといつになっても話が進まないので、スフィアは湧き上がる感情を抑えつつ、先を促した。
「うむ、単刀直入に言おう。フィーブルクランは、もうダメだ。お前一人が最後の希望だ」
「……へ?」
待て。今何を言った。単刀直入にも程がある。
「フィーブルクランは、運命に従い、再び壊滅すると言った」
執事が、神妙な面持ちでティーカップを手にした。
と思ったが、その手に発生ゼロフレームのフォークが突き刺さっていた。
「ヌヴォォォーー!」
今のは、勝った!?終わった!?第2期終了だと思ったのに!?
「姑息な真似を!いつのリベンジなのさ!」
「待て!席につけ!話は、本当だ!これから!これからですよ!だから、その白兵距離自動成功のアイテムをしまって下さい!オレは今既に少し錯乱している!」
「で?」
いや、マジで酷い。とか言いつつ、手を引っ込める執事。
「お前は、知らないだろうが、フィーブルクランとは世界の守りだ」
まあ、守りなんて大層なものじゃないか。道化役者だな。とか言いつつ、執事はポケットから缶コーヒーを取り出して一口すすると、テーブルの上に置いた。
「つまり、若干の仕様の違いはあるが、俺達はいわゆる決戦存在なんだ。世界のコマなんだよ。だから、世界自体が敵って事になると、こうなっちまうって事だ」
「汚染人種族アイドレス……」
「……そう、例えば、ライバルが、主役にとどめを刺しちまったりな」
そう言って、執事は視線を落とした。その苦渋の眼差しは、ここではない何処かに向けられている。
「前提条件から、負けていたんだよ。運命の鎖を断ち切るためには、過去を捨てなけりゃならなかったんだ。そこでフィーブルクランは致命的な失敗をやらかしちまったんだよ。だから……」
「だから……?」
「フィーブルクランの中で運命に対抗できるのは、プレイヤーであるお前だけだ。今この瞬間を持って、お前はフィーブルクランから除名。ただのスフィアとして、目の前の気に入らない全てをぶち壊せ。以上だ」
「いや、そんな急に色々言われても分からないよ……」
「すまん、もう時間が無い」
執事は席を立つ。
「今まで通りやれという事だ。オレもフィーブル重機も消えるが、それだけだ」
「そんな……事って……」
「で、今日の大事な話というのは、お前の除名と別れの挨拶って訳だ。お前達がゴージャス・タイムズを勝ち取るため、戦争根絶のために戦い続ける事を祈る。フィーブルクランのためではなく、お前の意思で……」
急に風が吹く。砂塵が城壁を越えて流れこむ。
「お前は満足か?こんな世界で……俺は嫌だね……」
視界が開けた時には、そこには執事の姿はもうなかった。
「………」
スフィアは、しばらくの間呆然と佇んで、失意に沈むように再び椅子に腰を下ろした。
飲みかけの缶コーヒーだけが、テーブルの上に残っていた。
別れの挨拶どころではなかった。
余りにも、突然。余りにも、一方的。いつもそうだった。
なんか考えれば考えるほどムカムカしてきた。
そう、あいつは、真面目な話が照れくさいから茶化すし、こうやって相手を怒らせて、それで悲しみや感謝を有耶無耶にしようとして。
そもそも、あいつ何の役にも立ってないし!なのに超上から目線だし!
しかも、捨て台詞がパクリとか、ツッコミ前に逃げるとかありえないし!全世界のロックオンファンにあやまれ!
今度会ったら……
「……絶対ぶっとばーーーーすッ!!」
黄昏の空が去り、世界は夜の闇に包まれようとしていた。
西国の強い日差しを遮るが、かと言ってジメジメもしない計算された位置に設置されたテーブル、季節の花が植えられた色彩豊かな花壇、蔓草の這う緑の城壁。規模はこじんまりしているが、立派なテラスと言って差し支えない代物である。
だが、ここに来る者は普通いない。外来の者はそもそも入ってこれないし、かと言って自由に立ち入りが許可されている城内の者でも中庭があるため、普段はこんな隅っこまで足を運ばないからだ。
となると、何故そんな微妙な場所に手入れの行き届いたテラスがあるのだという話になる。
それには話せば短いが、何とも捻くれた物語がある。
まず、元々ここは特に何に利用されているでもない唯の裏口前の空き空間であった。あったのは物置くらいである。
で、物好きかつ迷惑な何者かが、そこを耕して肥料をまいて、草花やら木やら見境なく植えて、裏庭とも家庭菜園とも呼べない奇妙な空間を作り出した。
まあ、賢明な読者の方は分かると思うが、後先考えない事に定評のあるスフィア=ラスタリア=フィーブル藩王、その人である。
知っている人は知っているかもしれないが、この国の藩王は本当に切羽詰まった時しか働かない。摂政が優秀過ぎるからである。
なら、普段何をしているかというと、国民に混じって畑を耕していた。あと王猫と散歩していた。
一応、幼すぎる藩王と実務を執り行う摂政という図式ではあるはずなのだが、どちらかと言うと隠居みたいである。いや、どちらかと言わなくても、老ネコと戯れて、農作業に明け暮れ、(紅)茶をすする姿は隠居そのものである。
しかし、そんな農作業も長くは続かなかった。念のため言っておくが、作業が辛くて無理とか、そう言った事ではない。
周りの住民が世話を焼き始めて、かえって負担が増大するという事態が発生したのである。変装をしなければ、散歩もままならない状態である。
鍬も取り上げられて、どうぞ我々にお任せ下さい状態になり兼ねなかったので、仕方なく撤収する事と相成ったのである。
だが、そうなるとまた手持ち無沙汰だ。
結局、何もしないよりは何かしながら考えようと、藩王は深く考えもせずに適当な誰も使わない所で農作業を行う事にした。(天の声:いや、書類に目を通して下さい、藩王殿)
しばらくは、そうやってできたカオス空間がそのまま放置されていたのだが、ある時誰かがその存在に気付いた。
そこからは早いもので、いつの間にか適当に持ってきたテーブルセットが綺麗なものと取り替えられ、芝生が整備され、いつの間にかテラスと化してしまった。
誰が整備したのかは、未だに不明である。聞いても誰もが知らないと答える。なので、これは王城七不思議だ。と、藩王は思っている。
/*/
スフィアは、カップの中の黄金の空を眺めていた。
そろそろ、日暮れだ。巣へと帰る鳥達も結構前に通りすぎていった様に思う。緑地化が進んだといっても、砂漠の夜は冷える。そろそろ、中に入った方がいいだろう。
今度は、直接黄昏の空を眺める。
平和だ。
だが、分かっている。もうその時が近い事は。
最近、嫌な話が入ってきている。ここも平穏無事で済むわけがない。
世界が加速を開始している。歴史が進み始めるのだ。
永遠に引き伸ばされた数瞬の平和が終わろうとしているのだ。
(何をすればいいかは分からないけど、何かをしなければならない)
想うだけでは何も始まりはしない。だが、想いは力だ。実現しようと行動する限り、それは希望であり、夢である。
スフィアは、自分のオツムが弱い事を自覚していたが、故にゼロやマイナスよりは1でもプラスの方が良いといつも考えている。
(さしあたっては、量子演算システムか……)
次のイグドラシル。運命の枝。理不尽に対抗する為の力。だが……
(運命の枝に沿った力が、運命を打ち破れる訳がない)
敵は、運命だ。世界だ。
つまりは……
「ゲーム、つまり世界法則そのものだ」
元摂政をやめて執事になった。例のアレである。
あのナチュラルな<どや!>感は一種の才能ではないかと最近思っている。
「理由も設定もなく、人の心の声を読むな!」
奴は間合いの外だ。一足では届かない。二足では……決められない。
座っている上に、テーブルにティーセットが乗っているから、布石も出せない。
奴は計算している。そう言う学習能力……ギャグキャラが持つべきではない。
「殺る気満々なところ大変恐縮だが、今日は大事な話があってきた」
「お腹が空いて死にそうとか?」
「オレの扱い酷くね?」
「普段の行いってやつだよ!」
地団駄を踏みたい。椅子に座っているからやらないけど。
2Pカラーこと遊闇遊夜は向かいの席に座った。普通に。
「……本当に大事な話みたいだね」
「……オレ、今泣いても許されると思うんだが?」
「それでなにかあったの?」
このままだといつになっても話が進まないので、スフィアは湧き上がる感情を抑えつつ、先を促した。
「うむ、単刀直入に言おう。フィーブルクランは、もうダメだ。お前一人が最後の希望だ」
「……へ?」
待て。今何を言った。単刀直入にも程がある。
「フィーブルクランは、運命に従い、再び壊滅すると言った」
執事が、神妙な面持ちでティーカップを手にした。
と思ったが、その手に発生ゼロフレームのフォークが突き刺さっていた。
「ヌヴォォォーー!」
今のは、勝った!?終わった!?第2期終了だと思ったのに!?
「姑息な真似を!いつのリベンジなのさ!」
「待て!席につけ!話は、本当だ!これから!これからですよ!だから、その白兵距離自動成功のアイテムをしまって下さい!オレは今既に少し錯乱している!」
「で?」
いや、マジで酷い。とか言いつつ、手を引っ込める執事。
「お前は、知らないだろうが、フィーブルクランとは世界の守りだ」
まあ、守りなんて大層なものじゃないか。道化役者だな。とか言いつつ、執事はポケットから缶コーヒーを取り出して一口すすると、テーブルの上に置いた。
「つまり、若干の仕様の違いはあるが、俺達はいわゆる決戦存在なんだ。世界のコマなんだよ。だから、世界自体が敵って事になると、こうなっちまうって事だ」
「汚染人種族アイドレス……」
「……そう、例えば、ライバルが、主役にとどめを刺しちまったりな」
そう言って、執事は視線を落とした。その苦渋の眼差しは、ここではない何処かに向けられている。
「前提条件から、負けていたんだよ。運命の鎖を断ち切るためには、過去を捨てなけりゃならなかったんだ。そこでフィーブルクランは致命的な失敗をやらかしちまったんだよ。だから……」
「だから……?」
「フィーブルクランの中で運命に対抗できるのは、プレイヤーであるお前だけだ。今この瞬間を持って、お前はフィーブルクランから除名。ただのスフィアとして、目の前の気に入らない全てをぶち壊せ。以上だ」
「いや、そんな急に色々言われても分からないよ……」
「すまん、もう時間が無い」
執事は席を立つ。
「今まで通りやれという事だ。オレもフィーブル重機も消えるが、それだけだ」
「そんな……事って……」
「で、今日の大事な話というのは、お前の除名と別れの挨拶って訳だ。お前達がゴージャス・タイムズを勝ち取るため、戦争根絶のために戦い続ける事を祈る。フィーブルクランのためではなく、お前の意思で……」
急に風が吹く。砂塵が城壁を越えて流れこむ。
「お前は満足か?こんな世界で……俺は嫌だね……」
視界が開けた時には、そこには執事の姿はもうなかった。
「………」
スフィアは、しばらくの間呆然と佇んで、失意に沈むように再び椅子に腰を下ろした。
飲みかけの缶コーヒーだけが、テーブルの上に残っていた。
別れの挨拶どころではなかった。
余りにも、突然。余りにも、一方的。いつもそうだった。
なんか考えれば考えるほどムカムカしてきた。
そう、あいつは、真面目な話が照れくさいから茶化すし、こうやって相手を怒らせて、それで悲しみや感謝を有耶無耶にしようとして。
そもそも、あいつ何の役にも立ってないし!なのに超上から目線だし!
しかも、捨て台詞がパクリとか、ツッコミ前に逃げるとかありえないし!全世界のロックオンファンにあやまれ!
今度会ったら……
「……絶対ぶっとばーーーーすッ!!」
黄昏の空が去り、世界は夜の闇に包まれようとしていた。
――To be continue.
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